リチャード・ワイズマンの新刊『超常現象の科学』

本城です。

イギリスの心理学者リチャード・ワイズマンによる新刊『超常現象の科学』(文藝春秋)という本が日本で翻訳出版されました。今回はそのご紹介です。

ワイズマンはイギリスを代表する懐疑論者・心理学者であると同時に、心理学を応用した実験やマジックの動画をYouTubeにアップして注目を集めている人物です。

こちらはその一例。日本の番組でも紹介されたことがあるのでご存知の方もいるかもしれません。(英語がわからなくても楽しめます)

さて、そんなワイズマンが超常現象をテーマに人間の心理と認知の仕組みをわかりやすく解説した本が今回の『超常現象の科学』です。もともと超常現象の調査に長年携わってきた人ですから、テーマとして申し分なし。各章それぞれに面白い話題が取り上げられています。

序章は、飼い主の帰宅時間がわかるという超能力犬を検証したエピソードから。日本の動物番組やスピリチュアル系の番組でも、この超能力犬は紹介されることが多いため、ご存知の方もいるのではないでしょうか。

ただし残念ながらその真相は日本ではほとんど紹介されません。けれどもワイズマンはこの犬と飼い主を実際に検証しており、本書ではその内容が詳しく解説されています。

続く第1章は占いがテーマ。百発百中の謎の占い師こと「ミスターD」が登場。面識のない客の情報を次々と当てていきます。彼の占いは本物なのか? 占いがよく当たったように思えてしまう仕組みとは? その真相はミスターD自身によって明らかにされます。

第2章は幽体離脱。過去に起きた幽霊離脱でしか説明できないとされる事件の真相を紹介しながら、脳が引き起こす奇妙な錯覚も実例を交えて紹介。幽体離脱と同じようなことを読者が体験できるやり方も伝授します。

第3章は超能力。ここでは世界一の超能力者ともいわれたジェイムズ・ハイドリックが登場。懐疑的な人も引っ掛かった彼のトリックとは? 超能力があると思い込ませるために必要な5つの原則も解説してくれます。

第4章は心霊現象。スピリチュアリズムと縁の深いフォックス姉妹から始まり、こっくりさんを実例とした脳と意識のギャップが引き起こす不思議について解説。

第5章も心霊現象。睡眠と心霊現象との関係や、脳が引き起こす様々な現象を具体的な実験をもとに解説。

第6章はマインドコントロール。900人以上が集団自殺し、史上最悪のカルト事件ともいわれる人民寺院事件。教祖のジム・ジョーンズは、なぜ900人以上もの人たちを自殺させることができたのか? なぜ外部から見れば狂信的とも思える教祖と教団に、信者たちは心酔していったのか?

日本でもオウム事件が起こり、最近もオセロ中島のマインドコントロール騒動が起きていますが、決して人ごとではありません。ワイズマンは、人がカルトにはまる要素を4つに分けて解説しています。

それぞれの要素は非常に人間の心理を突いており、誰でもその落とし穴にはまる可能性があります。またこういったマインドコントロールはカルトに限ったことではなく、私たちの日常にも潜んでいることが示されます。

第7章は予知能力。巷でもよく聞かれる「虫の知らせ」「予知夢」などを、実際に有名になった事件を交えながら解説。さらに巻末にはワイズマンから読者へのプレゼントとして特別付録も。「読心術」「瞬間麻痺」「暗示にかかりやすいテスト」「念力を身につける」「幽霊を呼び出す儀式」など、心理の働きを応用した実演キットが用意されています。

さて、以上のようにざっと各章を紹介してみましたが、もちろんこれで全部ではありません。それぞれに紹介できなかったエピソードや興味深い実験がたくさんあります。

たとえば心霊現象研究家のトニー・コーネルが行った「人はなかなかお化けに気つかない」という実験。夜中に白いシーツで身を包み、幽霊の格好をして人とすれ違っても、意外にも気づく人はほとんどいない、というんです。

さらに、映画館で上映の合間に幽霊の格好をしてスクリーンの前を横切ってみたところ、3分の1はその存在に気づかず、残りの気づいた人たちも、横切ったのは「分厚いコートを着た女性だった」とか、「どたどたしたホッキョクグマだった」とか、その内容はあやふやなものばかり。意外にも人は周りで起きていることに無頓着で、記憶もいい加減なようです。

また比較的有名な「ラトクリフ波止場の幽霊」では、怪談話をデッチ上げたところ、その作り話の内容に沿った幽霊を目撃した人が続出しました。とにかく本書は紹介されている実験やエピソードの数が豊富です。内容も具体的なので、なぜそういえるのか、というワイズマンの主張のしっかりした根拠となっています。

また説明の仕方も非常にわかりやすいです。各章ごとに、それぞれ4つか5つくらいのポイントにわけて説明しており、長くなる場合は最後の方でまとめ直す、といったことをやってくれます。

さらに読者を飽きさせない工夫として、ちょっとした心理実験なども用意されています。読者が実際に体験することができるんです。表紙はその一例。少女の絵が描かれていますが、これは背表紙も使うと幽霊のような少女の姿が浮かび上がる、という仕組みになっています。

陽気なワイズマンらしく、適所に散りばめられたユーモアも健在。難点をあげるとすれば、改行が少なく、通常の単行本に比べれば字が少し小さいという点があります。ただしその分、ページ数が抑えられて、翻訳本にしては値段もお手頃になっているので仕方ないかもしれません。

内容は十分に面白いです。ワイズマンは決して頭ごなしの否定をしていないため、スタンスを問わず楽しめると思います。超常現象に興味を持っている方はもちろん、人が見たり記憶したりする認知システムに興味がある方にも参考になる情報は盛りだくさんです。おすすめします。

リチャード・ワイズマンの新刊『超常現象の科学』”へ4件のコメント

  1. いぬ より:

    かなり今更ですが、この情報を見て同書を購入しました。帯は大きな文字で「あなたにも幽霊が見える!」と書いてあるもの(更に小さい文字で同書内の「幽霊の見方」が紹介されてる)」で、中身とあわせるとユーモアがあるなあと。

  2. 本城 より:

    >いぬさん
    紹介した甲斐がありました。
    おっしゃるようにユーモアのある本で面白く読めると思います。

  3. 佐とさん より:

    先日、武田鉄也がラジオでこの本を紹介していました。
    放送内容を書き起こししていますので、もし宜しければご覧になってください
    http://ameblo.jp/oidame/entry-11325530583.html

  4. 本城 より:

    >佐とさんさん
    ご紹介ありがとうございます。拝読しました。聞き逃していた内容を把握できて助かります。ワイズマンの本はお勧めですので、ラジオで紹介されるというのは嬉しいことです。興味を持ってくださる方が増えることを期待します。

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