2022年に「闇の3日間」が訪れて人類の3分の2が滅んでしまう?

山津寿丸です。

最近、「ノストラダムスの予言によれば、2022年に『闇の3日間』が訪れて人類の3分の2が滅んでしまう」という主張が見られるようになっています。ですが、これは本当にノストラダムスの予言なのでしょうか。

まず、わりと最近、ノストラダムスと『闇の3日間』とを結び付けているメディアを挙げてみましょう。

2022年「ノストラダムスの大予言4つ」徹底解説! “闇の3日間”に人類の3分の2消滅(TOCANA, 2021年10月20日)
ノストラダムスの予言は今も続いていた!? 2022年“闇の3日間”の内容にスピワ井戸田「メチャクチャ怖い!」(Abema Times, 2022年1月13日)
*「続!ノストラダムスの大予言 2022年「闇の3日間」で人類の3分の2が滅亡する」『FRAIDAY』2022年2月25日号

ところが、いずれの記事でも、具体的な出典が挙げられていません。

「ノストラダムスの予言を分析したところ、2022年は「闇の3日間」が起こるらしい。72時間の暗闇の後、人類の3分の2が神に見捨てられて消滅するという」

(TOCANA)

「『闇の3日間』は一部のカトリック教徒に信じられている終末の予言です。ノストラダムスはそれを示唆するような予言詩をいくつも残しています」

FRIDAYの白神じゅりこ氏のコメント

このくらいしか出典についての言及はなく、具体的にどんな予言詩の中に『闇の3日間』を見出せるのか示されていないのです。それに対し、私の調査の範囲では、該当する予言詩が見当たりません。

そもそも「闇」(ténèbres)が出てくる詩は第1巻84番しかありませんが、それはこんな詩です(以下、ノストラダムス予言の訳は私によるものです)。

月は深い闇に曇らされ、
その兄弟は錆色に顔色が変わる。
隠れ家に長い間潜んでいた大物は、
血塗れの傷口で鉄器を生温くするだろう。

ここから『闇の3日間』を導くのは不可能でしょう。

作家のアーサー・クロケットが紹介した四行詩には「闇が降りる」と訳されることもあるフレーズを含むものもありますが、クロケットの詩編は明らかに偽作ですし、その闇が3日間だともされていません(興味のある方は私の個人サイトの記事をご覧ください)。

また、予言詩には「3日」(trois jours)は一度も出てきません。面白いことに、「6日」「7日」「9日」などが登場する詩篇は存在するのですが、「3日」は一度も出ていないのです。

「3夜」が登場する詩は1篇だけあります。上の記事群でも言及されている第1巻46番です。

オーシュ、レクトゥール、ミランドの至近で、
三夜に渡って天から大火が降るだろう。
まさに呆然・驚倒すべき事件がおきるだろう。
すぐ後に大地が震えるだろう。

天から大火が降ったら赤々と燃え上がりますから、全然闇に包まれないでしょうね。実際、上の記事群でも、闇の3日間には直結させるような紹介はされていません。

以上から、『闇の3日間』は四行詩には無い、と言い切って差し支えないものと思います。

ただ、少々厄介なのは、『予言集』の第二序文(アンリ2世への手紙)には、やや思わせぶりな記述もあります。それについても検討しておきましょう。

まず、闇の訪れについては、こんなフレーズならあります(第二序文の節の区切り方には複数の方式がありますが、以下ではバレスト式で示します)。

そして、その前に、イエス・キリストの死と受難の時を除けば、天地創造から今までに起こった中で最も暗い日食が先行するでしょう。そして10月に何らかの大きな移転が行われ、その結果、人々はどっしりとした大地がその自然の動きを喪失し、永遠の闇に沈んだと思う事でしょう。春分の時期にはその前触れが起こり、そして後には極度の変化、治世の交替などが続くでしょう。それらは大地震によるもので、第一のホロコーストの嫌悪によって増大させられた哀れな娘である新しいバビロンの急伸を伴います。

50~51節

しかし、これも『闇の3日間』と結び付けるのは無理でしょう。イエスの受難と対比されていますが、イエスの受難のときの暗闇は(聖書の叙述通りだったとしても)3日も続いていないからです。

昼の十二時になると、全地は暗くなり、三時に及んだ。三時にイエスは大声で叫ばれた。「エロイ、エロイ、レマ、サバクタニ。」これは、「わが神、わが神、なぜ私をお見捨てになったのですか」という意味である。

マルコによる福音書 15章 33~34節、聖書協会共同訳

すでに夕方になった。その日は準備の日、すなわち安息日の前日であったので、アリマタヤ出身のヨセフが、思い切ってピラトのもとへ行き、イエスの遺体の引き取りを願い出た。この人は高名な議員であり、自らも神の国を待ち望んでいた人であった。

同15章42~43節

夕方にイエスの身体を十字架から降ろすための手続きを踏めたということは、その時までに暗闇は解消されていたはずです。ノストラダムスがこの暗闇と対比している以上、これを大幅に上回る3日間の闇を想定していたとは考えられません。

なお、ノストラダムスは1558年頃の小冊子『1559年9月16日に起こる日食の意味』で惨事の起こる年として1605年を挙げており、同じ時期の占星術師レオヴィッツの著書でも1605年の日蝕が警告されていたことから、古典学者ピエール・ブランダムールは旧暦1605年10月の皆既日蝕を想定していたのだろうと推測しています。

それが正しいかどうかはともかく、2022年と特定できるものではありません。

また、人類の3分の2の滅亡については、第二序文にこんなフレーズがあります。

そのときには、教会に対する未曾有の迫害が行われることでしょう。そうこうしているうちに悪疫が生じるでしょう。それが余りにもひどいので、世界の三分の二以上(の人口)が消えるでしょう。それは田畑や家々の持ち主が分からなくなり、認識されなくなるであろうほどです。そして、街路では草がヒザ上までも伸びるでしょう。

第69~71節

一応、これは人類の3分の2の死滅を予言していると解釈できます。ただし、その前後の叙述は混乱しており、いつのことだかは明記されていません。少なくとも、フランス革命を予言していたと喧伝される「1792年」という年代の明記された節は、これよりずっと後の107節のことです。

また、その直前、104~106節で詳しく述べられている星々の配置は、レオヴィッツの暦との一致によって、1606年のことと推測されています(これもブランダムールによるものです)。

「三分の二以上の人口の減少」の節は、前述の1605年の日蝕と1606年の星の配置の間に位置していますから、何の根拠もなしにそこだけは2022年のことだ、と解釈するのは相当に強引でしょう。

なお、見ての通り、どのみちこの3分の2の減少と「闇」とは、何も関連付けられていません。

では、『闇の3日間』はどこから出てきたものでしょうか。
前述の『FRIDAY』では、白神じゅりこ氏はピオ神父を挙げています。

「キリストから直接、啓示を受けたというイタリア人のピオ神父という人物もこう言い残していました。『完全な暗闇の中で、3日間、生きられるように準備せよ。その日が訪れるときは近い。その3日間で多くの人びとは食べることも飲むこともできずに死んでしまうだろう。光が戻っても、多くの人はそれを目にすることもかなわない』。」

しかし、ピオ神父は1968年に没していますから、「その日が近い」と述べているのに、50年以上たっている2022年のことだったというのは不自然です。

そして、何より英語・フランス語のサイトなどで『闇の3日間』について遡っていくと、言い出しっぺとして異口同音に名前が挙がっているのはピオ神父ではなく、イタリアの福者アンナ・マリア・タイジ(Anna Maria Taigi, 1769年~1837年)です。

アンナ・マリア・タイジ

私はイタリア語は読めないため、調査は限定的ですが、GoogleブックスやGallicaで閲覧可能な19世紀半ばに刊行された複数のタイジ伝では、『闇の3日間』は見当たりません。

また、聖者の予言を集めた『注目すべき予言の集成』(リヨン、1870年)に載っているタイジの予言には、教皇選挙の予言や、地球が炎に包まれるという物騒な予言はありますが、『闇の3日間』は出てきません。

そして、その2年後、『最も確かで注目すべき予言や啓示による我々の不幸と希望』(リヨン、1872年)には、文字通り注目すべき記述があります。

以下が1820年に著された、現在に関するアンナ・マリア・タイジに帰せられている予言である。同等の予言はアンナ・マリア・タイジと同時代のエリザベッタ・カノリ・モラ(訳注:イタリアの福者 1774年~1825年)によってもなされていた。
「教皇ピウス9世の在位中に、濃密な闇が3日間、地球を覆うだろう。(中略)その闇はとりわけ善人を装った敵、あるいはイエス・キリストの教会が公認した敵を死に至らしめる。聖別されたロウソクのみが灯り、災いから守ってくれるだろう(後略)」

3分の2の人類の滅亡など出てきませんし、何よりもここでハッキリと、『闇の3日間』はピウス9世の在位期間(1846年~1878年)のことだと明言されています。1870年代の人々にとっては、期限が目前に迫ったものと認識されていたのでしょう。

もうひとつ注目すべきは「アンナ・マリア・タイジに帰せられた」という表現が見られる点です。タイジは本当にこういう予言をしたのでしょうか。

同じ時期の『三位一体修道会第三会の尊者アンナ・マリア・タイジの生涯』(ロンドン、1873年)にも興味深い記述があります。

何日間もの間、彼女(訳注:タイジ)は極度に分厚い闇が全世界を覆い、その後に大きな建物が倒れるときのように壁も梁も崩れ落ちるのを見た。

この簡潔な叙述では、闇が何日間さえもはっきりしません。その部分にはこういう脚注が付いています。

上の予言は物理的な闇のことだと推測されている。我々の知る限り、アンナ・マリアは闇の持続期間も、起こるであろう期日も決定しなかった。だが、彼女の予言全体に精通した数少ない人物の一人であるナタリ猊下は、多くの人々からこの点について訊かれた際に、闇は3日間続くと断言した。

つまり、この記述が正しいのだとすれば、アンナ・マリア・タイジ自身の予言は、かなり漠然としたものであった可能性もあります。

ナタリ猊下の発言がどのような根拠によるものか分かりませんが、3日間続く闇というモチーフは、以下のように旧約聖書に見られるものであって、キリスト教徒にとってはそんなに異質なものではなかったのかもしれません。

モーセが天に向かって手を伸ばすと、暗闇がエジプト全土に三日間臨んだ。

出エジプト記10章 22節、聖書協会共同訳

いずれにしても、『闇の3日間』をタイジが予言したのかハッキリしない、予言していたとしても2022年とはおそらく限定しなかっただろうし、人類の3分の2が滅びるなどと結び付けることもしなかっただろうと思われます。

聖メトディウスに帰せられた7世紀の偽書『メトディウスの予言書』、聖マラキに帰せられた16世紀の偽書と考えられる『聖マラキの予言』など、キリスト教の聖人を著者に擬したニセ予言書は、古くからよくある話でした。これも似たような例ではないでしょうか。

私の調査は限定的なものですので、実はタイジが予言していたという可能性も否定はしきれません。

ただ、このように予言の正当性を疑わせる指摘がすでに19世紀に見られたことを踏まえるならば、具体的な出典を挙げずに『闇の3日間』云々と言い出す論者が現れても、まともな検討の対象にはなりえないと考えられます。

2022年に「闇の3日間」が訪れて人類の3分の2が滅んでしまう?”へ2件のコメント

  1. COOKIE より:

    闇の三日間でだれも死なないでほしいです。神様にお願いします。
    それくらいしかすることがないかもしれない。でも、きっとわかってくれる。神様なら

  2. オリハル より:

    暗闇の三日間を知る 2021.5.17
    https://ameblo.jp/tamagonokimi122/entry-12675157570.html
    『もし、地球の極が突然反転したら、再び大地震や高波による破壊が起こるでしょう。

    大天使ミカエルの船とアークトゥリアンのアテナの船という2つの巨大な宇宙船が配置されています。これらの宇宙船は意識で構成されており、その中にはまだ他の意識が存在しています。

    それぞれの船は、地球の磁極の一端に配置され、地球の回転が完全に止まるまで遅くなります。この介入の最後の瞬間に、船の1つが太陽の前に置かれ、そこで停止し、ゆっくりと遠ざかり始め、地球が再び時計回りに回転するようになります。

    この旅には3日かかり、3日間の暗闇を引き起こします。これは、太陽と地球の間に滞在し、来た道を戻ってくるまでにかかる時間です。』

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