2022年版「ノストラダムスの予言」の検証

山津寿丸です。

ノストラダムスが2022年向けの予言をしていた、と国内・海外のオカルト系ネットメディアが話題にしています。

たとえばTOCANAではこんな感じです。

*ノストラダムスの2022年の大予言、決定版! 第三次世界大戦&核戦争…●●の上昇
https://tocana.jp/2022/01/post_228550_entry.html
(仲田しんじ氏、2022年1月2日)

*ノストラダムス「2022年にフランスが東洋の大国と戦争」仏中戦争か!? 第三次世界大戦の勃発も…
https://tocana.jp/2022/01/post_228704_entry.html
(編集部、2022年1月8日)

ただ、これらの記事は海外のネットメディアを出典として挙げているため、そちらも踏まえて検証してみましょう。

まず、仲田氏の記事ですが、『ニューヨーク・ポスト』のレダ・ウィグルの記事を主な情報源にしていることが、記事に明記されています(あと2つの出典が挙げられていますが、それらは『ニューヨーク・ポスト』の記事の出典になっているものです)。

その記事はこれです。

*Nostradamus predictions for 2022: cannibals, robots and the rise of cryptocurrency
https://nypost.com/2021/12/27/nostradamus-predictions-2022/
(Reda Wigle, New York Post, 2021年12月27日)

内容を順に検討していきましょう(ただし、一つ目の予言だけ後回しにします)。
以下、ニューヨーク・ポストの英訳と仲田氏の和訳を併記します。

AIの台頭

“The Moon in the full of night over the high mountain /The new sage with a lone brain sees it /By his disciples invited to be immortal/Eyes to the south. Hands in bosoms, bodies in the fire.”

「高い山の向こうの満月/新しい賢者が唯一の脳がそれを見る/弟子たちによって不死に招待される/南の目。胸に手を当て、火の中に体を」

これはAIについての予言だそうです。原詩は明らかにこれでしょう。

La lune au plain de nuit sus le haut mont,
Le nouueau sophe d’vn seul cerueau la〔=l’a〕 veu:
Par ses disciples estre immortel semond
Yeux au mydi. En seins mains,corps au feu.

真夜中に月は高い山の上、
新しい賢者は唯一の脳でそれを見た。
その弟子たちによって不死たることを叱咤される。
双眼は南に。両手は胸に、体は火へ。

『予言集』第4巻31番
https://w.atwiki.jp/nostradamus/pages/465.html

この詩は五島勉氏が『ノストラダムスの大予言スペシャル・日本編』(1987年)で「新しい脳の人」などという思わせぶりな紹介をしたこともある詩ですから、見覚えのある方々もいるかもしれません。

ただ、見ての通り、2022年などという言及はありませんし、それをほのめかす占星術的な記述(「火星が人馬宮に」のような星の配置)もありません。これでどうして2022年の予言だと言えるのでしょうか。

もうひとつ、英訳では2行目を現在形で表現していますが、実際の原文では直説法複合過去(フランス語でのごく一般的な過去形)で書かれており、過去の事件であることが示唆されています。なお、3行目の動詞も不定法(原形)であり、未来形の動詞はこの詩に一つも存在していません。

そのことから、フランス文学者らからは、直近の過去に起きた宗教指導者の火あぶりの様子をモデルにしたのではないかという説が出されています。

実際、弟子たちから励まされる中、目を南に向け、手を胸にもっていき(胸に当て?胸の前で合掌し?)、火に身を投じるという描写は、そう解釈しても自然なように思われます。

核による旱魃

“For forty years the rainbow will not be seen/For 40 years it will be seen every day/The dry earth will grow more parched/And there will be great floods when it is seen,”

「40年間は虹が見えない/40年間はそれが毎日見える/乾いた大地はより干上がる/そしてそれが見えると大洪水が起こる」

核兵器の使用が引き金となって、旱魃や洪水などの異常気象が引き起こされるというのです。原詩は明らかにこれでしょう。

Par quarante ans l’Iris n’aparoistra,
Par quarante ans tous les iours sera veu:
La terre aride en siccité croistra,
Et grands deluges quand sera aperceu.

四十年間、イリスは現れないだろう。
四十年間、(それは)毎日見られるだろう。
旱魃の大地はますます乾燥していき、
そして(イリスが)目撃されるときには大洪水が。

『予言集』第1巻17番
https://w.atwiki.jp/nostradamus/pages/1306.html

イリスは虹の女神で、転じて「虹」のたとえとしても使われます。その意味で、比較的忠実に引用されていると言えるでしょう。

ただ、この詩では40年間見えない虹というモチーフと旱魃が結び付けられていますが、同時代の占星術師リシャール・ルーサ『諸時代の状態と変転の書』(1550年)に同じ描写があり、ノストラダムスがそれを参考にしたと推測されています。

ノストラダムスがどのような情景を想定していたのかについて、確定した説はありませんが、いずれにしても年が明記された予言ではありませんし、最近、虹について何か変わったニュースが広まっているわけでもありませんから、なぜ2022年と結び付けられるのか疑問です。

核との結び付けに至っては、「虹」あたりを曲解した結果ではないかと思われますが、大元の出典らしき「Yearly-Horoscope」の記事では何の説明もなく核爆発による気候変動などの予言とされており、よく分かりません。

暗号資産(仮想通貨)

“The copies of gold and silver inflated/Which after the theft were thrown into the lake/At the discovery that all is exhausted and dissipated by the debt/All scripts and bonds will be wiped out.”

「金と銀のコピーが膨らんだ/泥棒が湖に投げ込まれた後/すべてが借金によって使い果たされて消失したことが発見されたとき/すべての手形と債券が一掃される」

暗号通貨の相場に関する予言だそうですが、原詩はこれでしょう。

Les simulachres d’or & d’argent enflez,
Qu’apres le rapt au lac furent gettez
Au descouuert estaincts tous & troublez.
Au marbre escript prescripz intergetez.

金と銀で膨んだ偶像が、
盗まれた後で湖に投げ込まれたのだ。
発見されると、全てがくすみ、濁っていた。
大理石の碑文には規定が挿入されている。

『予言集』第8巻28番
https://w.atwiki.jp/nostradamus/pages/248.html

この詩はもともと1行目を「金銀の模造品」等々と読んで、紙幣の出現やインフレの予言とされてきました。ただ、原文に沿って読む限りでは、現在の経済情勢と結び付けるのは無理があります。

そして、この詩でも動詞の活用形は2行目の直説法単純過去(歴史叙述などで、過去の時点で完結した事柄に使う)だけです。この詩は仏文学者からは、続く29番、30番とともに、紀元前のトゥールーズの黄金の伝説を基にしているという説が提起されていますが、直説法単純過去の使用は、そうした説とよく整合しています。

いずれにしても、この詩にも2022年の出来事と推測させるカギがない点は、上の例と同じです。

穀物の高騰と飢饉

“So high the price of wheat/That man is stirred/His fellow man to eat in his despair.”

「小麦の価格がとても高い/その男は勇み立つ/彼の仲間は絶望して食べる」

さて、仲田氏の記事では「インフレ、飢餓」という抑制的な見出しで最初に取り上げられていますが、ニューヨーク・ポストの記事では「インフレ、飢餓、人肉食?」(Inflation, starvation and cannibalism?)と刺激的です。

この検証を後回しにしたのは、原詩の特定の説明が長くなるからです。というのは、この訳にぴったり一致する予言詩はないのです。ただし、推測は可能です。

仲田氏の訳だと分かりづらいですが、英訳だと受験英語でもおなじみのso~that~構文(とても~なので~だ)が含まれているとわかります。これをフランス語ではsi~que~で表現します。si~que~の構文が出てくる小麦の高騰の詩といえば、以下の一つしかありません。

La voix ouye de l’insolit oyseau,
Sur le canon du respiral estaige,
Si haut viendra du froment le boisseau,
Que l’homme d’homme sera Anthropophage.

異様な鳥の声が聞こえる、
直立する換気用の煙突の上から。
小麦の入ったボワソー枡が余りに高くなるので、
人が人を食べるようになるだろう。

『予言集』第2巻75番
https://w.atwiki.jp/nostradamus/pages/960.html

この後半2行からボワソー枡のような地味なモチーフを削って「絶望」などの刺激的な言葉を追加し、3行ぶんに水増ししたものが、先に引用した予言の正体でしょう。

なお、この詩の後半に(his) fellow man云々を入れて訳す例は英語圏ではエドガー・レオニ、ジョン・ホーグ、ピーター・ラメジャラーなどに見られます。参考までに、レオニのNostradamus :Life and Literature(1961年)から後半2行だけ引用して、先のウィグルの英訳と並べてみましょう。

レオニ
So high will be the bushel of wheat rise, / That man will be eating his fellow man.

ウィグル(大元はSky Historyの英訳)
“So high the price of wheat/That man is stirred/His fellow man to eat in his despair.”

見ての通り、despair(絶望)のように、原詩をさらにネガティヴに改変するアレンジを加えた引用であろうことは、ほぼ間違いないものと思います。ただ、この詩もまた、特に時期の指定はなく、2022年に結び付けるべき必然性のないものです。

さて、次はTOCANA編集部による記事のほうですが、そちらはExpressの記事が出典とされています。ただ、同じ詩はニューヨーク・ポストの記事が参照していたSky Historyの記事にも出てくるので、どちらが先か分かりません。

TOCANAの和訳だけ掲げておきますが、こういう詩です。

「青い指導者が白い指導者に加えるだろう
フランスが彼らに善をなしたごとく悪の危害を」

これを第三次世界大戦の可能性のある詩としているのですが、原詩は明らかにこれでしょう。

La teste blue fera la teste blanche
Autant de mal que France a fait leur bien.
Mort à l’anthenne grand pendu sus la branche,
Quand prins des siens le roy dira combien.

青い頭が白い頭になすだろう、
害悪を。フランスが彼らに善をなしたのと同じくらいに。
帆桁には死体が、枝には偉人が吊るされる。
臣下の捕虜(の数)がいかほどかを王が語るであろう時に。

『予言集』第2巻2番
https://w.atwiki.jp/nostradamus/pages/2786.html

TOCANAの記事では、刺激的な見出しと裏腹に本文では

漠然とした予言であり、第三次世界大戦の勃発を暗示しているとも言えるし、フランスが2022年のカタール・ワールドカップへの出場権を獲得することを意味しているのかもしれない。東洋の大国に青い指導者がいるというのも連想しにくいところだ。赤ならまだしも……。また、この記述からは2022年という年代も出てこない。

とセルフツッコミが入っています。私としてもこれ以上突っ込む要素はありません。

なお、ノストラダムスは1565年向けと1566年向けの『暦』において、青いターバンを巻いた人々と白いターバンを巻いた人々の戦いという形で、サファヴィー朝ペルシアとオスマン帝国の対立を描写しています。

このため、仏文学者らは、フランスと同盟関係にあったオスマン帝国がサファヴィー朝と対立していたことを踏まえた詩だろうと理解しています。

以上、ひとつとして年代どころか星の配置の描写すらない詩ばかりで、なぜこれらを2022年に結び付けようと思ったのか理解に苦しみます。

ただ、実は例年のパターンだと、ノストラダムスが一言も言っていない予言が捏造されることも多かったので、一応本人が書き残したものがもとになっているだけ今年の予言はマシだと解釈できるのかもしれません。

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