『超常現象を科学にした男』

ナカイサヤカです。

謎解きシリーズ/検証シリーズとは別にASIOSから生まれた本が出版されましたのでお知らせします。超能力研究のノンフィクションです。

超常現象を科学にした男――J.B.ラインの挑戦
ステイシー・ホーン (著), 石川幹人 (監修), ナカイサヤカ (翻訳)
単行本: 348ページ
出版社: 紀伊國屋書店 (2011/6/30)
ISBN-10: 4314010770 ISBN-13: 978-4314010771

この本に出会ったのは、あるASIOSの会合でした。石川幹人さんから「これ、翻訳して」とナカイに手渡されたのが原書の『Unbelievable』。石川さんに本を持ち込んだのは、紀伊國屋書店出版部の和泉さんでした。

デューク大学超心理学研究所のことは知っていたものの、こういうことだったのかと思うことがたくさんありまして、すっかり夢中になってしまいました。思いがけず長い時間がかかってしまいましたが、和泉さんのサポートを受けつつ、原作者のステイシー・ホーンと石川さんにも支えられてようやく出版となりました。時間がかかっただけ、良い本になっていると思います。

原作者のステイシー・ホーンはニューヨークの下町に住むメディア作家。猫と一緒の一人暮らしで、常にチャレンジを忘れない素敵な女性です。911のボランティアをしたことから、ニューヨーク市警のコールドケースを扱った本を書き、ノンフィクション作家として歩み始めました。忘れられた人々に愛情を注ぐ彼女がデューク大学に眠る700箱の資料に取り組み、関係資料を発掘し、関係者にインタビューして書き上げたのがこの本です。

原作にはない写真を入れたり、巻末に石川さんの解説があったりと、原書+αの日本語版になっていまして、ステイシーも大喜びしてくれました。

20世紀のアメリカ史としても面白く、J.B.ラインという一人の人間が生きている間にもこれだけ時代が変化していったのかと、そこにも深い感慨がありました。「謎解き古代文明」の項目を書いた時にも感じたのですが、もう1980年代以前というのははっきり過去になってしまっていて、まだリアルタイムで体験した人たちがたくさんいるにもかかわらず、本当にいろいろなことが消えて行ってしまっています。消えて良いものもあるのでしょうが、ASIOS的には覚えておかなくてはいけないものもたくさんあるように思います。

この本、原稿としては全訳したのですが、ページの関係上、霊能者に関する記述少々とニューヨーク市の史跡「モリス・ジュメル館」の幽霊の話を入れることが出来ませんでした。モリス・ジュメル館は現存するマンハッタンで一番古い建物で、独立戦争では司令部がおかれたこともあります。遠足にやってきた子どもたちが、突然バルコニーに現れた「昔の衣装を着た博物館の女の人」に怒られるところから始まるのですが、この時、建物は無人だったんですよね。半透明でも何でもない幽霊で、子どもたちはてっきり職員だと思ったんだそうです。

ご覧になればわかるように、非常に明るく美しい建物で、しかも真っ昼間の幽霊ですからなかなかパワフル。そして小説のような実話が明らかになります。そして登場するのは幽霊探偵のハンス・ホルツァー・・・ステイシーの許可を貰って、いずれどこかでご紹介したく思います。

しかし本の主人公はJ.B.ラインと弟子たち。翻訳中にステイシーに「ラインどっぷりの毎日」と書き送ったところ、「私もラインどっぷりだった」と返事を貰ったのですが、「奇妙な論理」の中で他のトンデモさんとは同列に扱えないとマーティン・ガードナーも敬意を表明したラインの魅力にあふれています。

すでに超常現象ファンのみなさまにはお馴染みの事件も登場しますが、デューク大学の箱の中に眠っていた手紙やメモが資料に加わっています。ASIOSファンのみなさまなら、必ず1回は・・・いや、3回はへえと言って下さると思います。

ちなみにこの本にはトリック暴きやインチキ霊能者も登場しますが、超常現象を否定しているわけではありません。ASIOSのメンバーがどうしてこのような翻訳本を出すのかという疑問を持つ方もいらっしゃるでしょうが、成功したかどうかは別として「超能力が本当にあるなら証明したい」というラインの情熱はASIOSのメンバーがもっているものと同質のものです。そのあたりは皆神さんと石川さんの『トンデモ超能力入門』(楽工社)と、本城さんの記事をご覧いただけると良いかと思います。

石川さんはもう一冊超心理学の本を準備中です。私も大変楽しみにしています。超能力実験イベントも出来ればいいなと画策中ですので、まずは本書をお楽しみ下さい。

目次

プロローグ

第1章 交霊会
はじまり/ボストンの霊媒/J・B・ライン登場/ミナの転落/デューク大学へ

第2章 ESP
テレパシーとの出合い/ESP――超感覚的知覚/アインシュタインと霊媒/ヒューバート・ピアース/アイリーン・ギャレット/超心理学研究所

第3章 名声と苦闘
ある少女霊媒の生涯/批判と支持/ブームと論争の日々/ラジオ放送の大反響/米国心理学会/暗雲

第4章 戦争と死者
戦時下の研究所/PK――念力/終戦/独立と孤立

第5章 悪魔祓い
エクソシスト/メリーランド悪魔憑依事件/性とポルターガイスト/エクソシストの真相/憑依と脳科学/安定と停滞

第6章 声なき声
新たな発展を求めて/幻覚仮説/聴こえる幽霊/声を聴く人々/退行催眠と生まれ変わり――ブライディ・マーフィー事例/UFO/著名な訪問者たち/超心理学協会

第7章 ポルターガイスト
騒がしい霊/偶発的超常事例/四つのポルターガイスト事例/シーフォード・ポルターガイスト事例/シーフォード事例調査研究報告/テレビ出演と新たな手紙/ポルターガイスト後日譚

第8章 特異能力者
消えた少年/ハロルド・シャーマンの透視/霊能者ピーター・フルコス/六〇年後――続く調査/霊能探偵フルコスの事件簿/フルコスの虚像と実像/ラインと霊能者

第9章 サイケデリックと冷戦
臨死体験/ティモシー・リアリーとの出会い/ドラッグとESP/サイケデリックの時代/ESPの軍事利用研究/超心理学のスプートニク/遠隔透視諜報計画スターゲイト

第10章 幽霊と科学者たち
心霊現象再び/幽霊の歴史/超心理学者ロールとジョインズ/量子の謎――物理学者たちの困惑と見解/現代の幽霊研究/電磁波、人工幽霊、脳

第11章 遺産
苦闘の果て/繰り返される批判、世を去る旧友/FRNMへ/新たなスタート、希望と絶望/ゴール/迷走/ラインの死/記憶の彼方へ

エピローグ

謝辞
解説 石川幹人
年表 J.B.ラインと超心理学
参考文献
索引

『超常現象を科学にした男』”へ5件のコメント

  1. NICE より:

    はじめまして
    超心理学に興味があり、半端な英語力で英語圏の関連本も読んでます。
    私自身は懐疑派を自称してなくて、むしろ自分は(日本ではほとんど知られてませんが)超心理学者のエド・メイに近い立場だと思ってます。
    石川先生のブログにも何度かお邪魔してました。少し専門的な質問があるので、時間があればまた訪問したいですが。
    石川先生は数年前から超心理学はこれから10年が勝負、みたいなことをおっしゃってましたが、現状を見ると厳しそうですね。
    ラディンの邦訳本が売れたように見えないし、日本では超心理学は興味を引かないように見えます。
    アメリカではアカデミックな分厚い超心理学本や批判本が次々と出版されるのとは対照的です。
    日本では超心理学研究が人目につかない一方で、江原某のような派手な心霊番組が人気を博すのは残念です。
    ご紹介の本は読んでみようかと思ってます。
    本の購入という形で微力ながら支援するつもりです。

  2. ナカイサヤカ より:

    コメントありがとうございます。
    原作者のステイシーは超心理学研究所の元研究者たちと話をするまで、どれだけ超心理学が厳しい批判に晒されてきて、研究をするというだけで大変な決意が必要だったのかをわかっていなかったと言っています。
    盛んに論文を発表していた研究所のメンバーの中にも、その後の行方がわからなくなってしまっている人がいるようです。
    インチキはとんでもありませんが、きちんと研究することに対してはちゃんと敬意が払われるべきだと思いますし、ささやかながらこの本が再評価のきっかけになればと願っています。
    よろしければ、ステイシーのサイトもご覧になってください。
    http://www.echonyc.com/~horn/stacy/
    今現在は合唱の本を書いているので、音楽の話題が多くなっていますが、この本に入りきらなかったエピソードや写真を見ることができます。

  3. zanki より:

    はじめまして。
    ナカイサヤカさんは英語ができるんですね。
    羨ましいです。
     ところで、精神世界系の話は肯定的な
    部分の進歩が全くみられないのはどこに
    問題があるとお考えですか?

  4. ナカイサヤカ より:

    zankiさん
    コメントありがとうございます。
    精神世界系と言っても範囲が広いですが、どうも焼き直しのようなものが多いなあと感じられているということでしょうか?
    あるいは、これだけ色々な人が精神世界について書いているのに、世界に影響がないなあということでしょうか?
    実は私は問題の根っこは同じだと思っています。人は信じたいものを信じてしまいます。今、スピリチュアルに惹かれる人々は、安心できる、優しいものを見たいと感じているのではないでしょうか。そうなると馴染みのある話が多くなりますし、現実的な社会で否定されてしまったことも生き続けることになります。現実社会の方が刺激的になりますから、興味を持つ人も減っていってしまいます。
    科学の最前線と対抗するのはなかなか難しいことだとは思いますが、精神世界の話にも新たな挑戦が必要なのではないでしょうか。

  5. zanki より:

     レスありがとうございます。
    おっしゃる通り「焼き直し」も多いですね。
    良く言えば温故知新かも知れませんが、「太
    古のモノは正しい」という根拠のない心理
    が働いているように思います。
     また、確かにこれだけスピリチャルな技術
    や理論が提唱されているというのに世界はち
    っとも変わらない。それらの9割以上がデタ
    ラメである証拠なのでしょう。
     しかしこの分野が進歩しない根源的な理由は…
    論理的な思考をする人間は、超常的な体験を
    しにくく、逆に超常体験をして精神世界を信
    じている人は、論理的思考を敬遠する傾向に
    あるということだと思います。

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