『人はなぜだまされるのか』
本城です。
ASIOSにも参加されている石川幹人さんが先日、新しい本を出されました。不思議現象をひとつの切り口としていることもあり、興味を持ってくださる方もいらっしゃると思いますので今回はその紹介をしたいと思います。
新刊のタイトルは『人はなぜだまされるのか』。講談社のブルーバックスシリーズです。石川さんといえば超心理学ですが、本書では超心理学系の話は登場しません。メインテーマは進化心理学。この進化心理学とは「心の働きが形成された経緯を生物進化論にもとづいて考える」(P.5)学問です。人間の感情や心理の由来について進化論からアプローチする分野と言い換えてもいいかもしれません。人類学、社会生物学、認知科学など、多くの領域にまたがっている学問分野でもあります。
本書はそんな進化心理学の観点から、人のだまされやすさを具体例に、その心の働きの進化的な由来を考察しています。決して内容は難しくありません。適度にイラストが示されていたり、思考テストなどもわかりやすく解説されたりしていて大変面白いです。
全体としては、菊池聡さんの『超常現象をなぜ信じるのか』(講談社)を思い浮かべていただけるとわかりやすいと思います。菊池さんの本が超常現象を信じる心理や誤信の仕組みを認知心理学の観点から解説した本だとすれば、本書はその由来を進化心理学の観点から解説した本といいましょうか。
肝は、私たち人間の心が300万年前から1万年前ほどまで続いた狩猟採集時代の生活に合うよう、あらかた最適化されているという考え方です。これにもとづけば、私たち人間のだまされやすさは、現代からみると非合理に思えるところがあっても、その時代ではむしろ合理的であり、長い進化の歴史の中で基本仕様として備わっていったものではないか、ということが考えられます。
逆に、たとえば懐疑の精神のようなものは生まれながらに備わっているものではなく、言語と同じく学習しなければなかなか身につかないものだとも考えられます。
このあたり、進化心理学の観点から考察すると興味深いです。私はこういったアプローチの仕方に触れたのは初めてではありませんが、以前からの興味をさらに掘り下げてくれる本書の内容は大変参考になりました。他にも興味をお持ちの方には、お勧めの一冊です。
なお進化心理学については議論もあり、著者である石川さんも、その点には留意されながら、すべてを進化心理学で説明できるとしているわけではありません。また進化心理学については、本書の「おわりに」でわかりやすく解説されていますので、そちらも合わせてご覧ください。
目次
はじめに
第1章 錯視 高度な視覚機能のなせるわざ
凹凸が見える錯視、照明の役割、太陽がつくった眼、
前後が見える錯視、草原に生きる
第2章 注意 明らかな変化なのに気づけない
チェンジ・ブラインドネス、注意のスポットライト、
注意を引きつける、ボトムアップとトップダウン、
視線から意図を知る、指さしで意図を知らせる
コラム1 心はアーミーナイフ――進化心理学の発端
第3章 記憶 歪められたり、作られたり
憶えているという自覚、道具としての記憶、
行為が強める記憶、思い出の記憶
第4章 感情 集団を支える怒りと恐怖と好奇心
恐怖症、環境が進化を促進する、多様性の価値、
恐怖の反対:冒険心、恐怖を与える怒り、
恐怖症の克服、怒りの克服
コラム2 協力集団が人間らしさをつくった――進化心理学の意義
第5章 想像 壁のシミが幽霊に見えるわけ
想像で思考する、想像と夢、想像から言語へ、
記憶へ混入する想像、意図をもつ物体、心霊写真
第6章 信念 なぜ噂を信じてしまうのか
信念の由来、模倣による伝承、生活集団の規模、
噂の評判、一万年以降、懐疑の精神、
反対側に注目する、確証バイアス
コラム3 意識は心を理解できるか――進化心理学の受容
第7章 予測 将来の危機を過小評価する心の働き
法則好きなサル、ツキとスランプ、後づけの落とし穴、
コントロール欲求、主観的確率、奇跡をめぐって、
不確実な将来の予測
おわりに
凄く興味のある分野の著書ですので、注文してみたいと思います
あくまで私的な認識ですが、超常現象を無批判に肯定してる方々は、詐欺師の延長線上にいると思っています
詐欺というのは基本、好奇心(or欲望)か恐怖心を煽るの二択であり、実は両方とも深く繋がっていると思っています
望むことと忌諱したいもの、一見正反対ですが、実は両立するのは五島勉氏がノストラ関連で豪邸建てた事実を鑑みれば、理解できるかなぁ、と思ったり
最近では2012年に関する話題で、「もうちょっと考察しようよ」で済む話を、わざわざ不安を煽って著書を買わせようとする誰かさんとか(ぉぃぉぃ
まぁこんなこと言えるのも、90年代にノストラ予言に嵌ってしまったから言えることなんですが(汗
結局のところ人は古今東西騙されやすいモノで、自分も例外ではないというとこで、締めさせていただきます
興味を持ってくださってありがとうございます。
超常現象を無批判に肯定している方々にもいろいろいるので、私は一概に詐欺師の延長線上にいるとは認識しませんが、人は自分も含めて古今東西騙されやすいというのはそのとおりだと思います。
紹介の本を読むと、誤信や誤認の実例を体感できますし、その由来についても考察しているので参考になります。
本城様、初めまして。
「ジェームズ・ランディ」で検索していて、こちらのサイトに
辿り着きました。
本タグの記事の内容とは関係ないことで恐縮ですが、プロフで
は2007年に日本で設立されたとありますが、ASIOS様
でこれまでに超能力のカテゴリーにおいて本物であると実証さ
れた事例は御座いますでしょうか。
お手数ですが教えて頂けたら幸いです。
>兵庫さん
はじめまして。
超能力者の方たちからは定期的に実験の申し込みがあり、実際これまで何度か実験を行っていますが、本物だと実証された事例は今のところありません。
おひさしぶりです。こんどは
超心理学: 封印された超常現象の科学
が8/29紀伊國屋書店から出版されますね。こちらも、たのしみです。
石川さんは以前から少しずつ執筆されていたようで、今回、ようやく出版されることになって良かったです。本が出て読み終わったらレビューを書く予定です。